ごめん。。
って寝言言ってた。
何度か言われたことがある。
もともとあまりよく眠れないほうではあるのだが、時々悲しい夢を見る。
長いストーリーと言うよりある一場面が浮かぶ。
あたりがもう暗い夜。
引越しの荷物を積んだトラック。
トラックの助手席に私が乗っている。
黒い犬がずっと並走している。
窓を開けて
「ダメだよ。戻りなさい」
いくらさけんでもあきらめずに走り続ける黒い犬。
「行くぞ」
トラックの運転席から声がした。それまでゆっくり走ってくれていたのだ。
加速するトラック。どんどん小さくなっていく小さい黒い犬。
ごめん。
さよなら。
どうにか生き延びて。
20代のある秋の出来事。
何度も何度も夢に出てくる。
なかなか心を開かなかった犬
その犬は捨て犬だった。
人のいない場所にダンボールに入れられ放置されていたのだ。
たまたま夏に帰省していた私と一緒にいた父とが見つけたオスの子犬だった。
黒い犬でお腹が白く本当に小さな犬。
犬を飼ったことはなかったが、すぐに家に連れ帰りその日から家族になった。
名前はクロ。
最初は少し怯えたような犬だった。
散歩をしてもすぐ歩くのをやめてしまい帰りは抱いて帰るような犬。
いつも小刻みに震えていた。
「人間不信かもなー」
皆でそんなことを言っていた。
でも次の夏に帰省した時、まるで別人のように変わったクロが待っていた。
墓地の近くの私の家はお盆は人の往来が多い。
皆がクロを撫でてから通っていた。
まるで番犬としては無能だったが、人間が大好きな犬になっていたのだ。
母に聞いたエピソードがある。
父がおんぼろ車にエンジンをかけるとクロはすぐに乗り込んだ。目的地は稲刈りの終わった田んぼ。クロはどこまでも広い田んぼで好きなだけ走り回り遊ぶ。
クラクションを1回鳴らすと「帰るぞ」の合図。
どんなに遠くにいてもダッシュで車に戻る。
頑なだった人間不信はすっかり消えさって幸せそのものだったクロ。
クロの存在は私が家を出たあとの年の離れた弟の寂しさも埋めて2人はお互いを大好きな大親友だった。
あのとき二つのちいさな心につけた傷。
引越しの時に10歳の弟はクロと離れたくないと泣いた。
しかし引越し先は安アパートで犬など飼える環境ではない。
そもそも引っ越しなどしたくない弟に、どうしようもない嘘を着いた。
「素敵なマンションに引っ越したらクロを迎えに来ようね」
「出来るだけ早くしてね」
その場限りの嘘をついて急いで荷物をまとめ
父を捨てて私達は夜逃げをした。わざとクロのリードを外す。
正確には父が残るので夜逃げではないのかもしれないが、とにかく家財道具など差し押さえをまぬがれようと父とクロを捨てて出発した。
ずっと家族で暮らしたかった家。
私と祖父が暮らし
祖父と父と母と弟が暮らし
祖父が亡くなった。
クロが家族に加わった。今度こそいつでも帰れる場所だと思っていた家。
幼なじみからしばらくの間クロが町中を歩き回っていたと聞いた。
幼なじみの家にもフラフラ痩せた体で来たらしい。
たぶん家族を探し回っていたんだろう。
家で泥酔していた父のもとにクロを届けてくれた人がいたようだった。
あの時は知恵もなく目の前の現実に必死で仕方ないことだと思っていた。
浅はかだった自分に対しての後悔。
何年たっても今でも夢にみるあのシーン
あの時の1番の犠牲者はクロ。
今もあの時の罪を忘れる事ができずにいる。
ココ