生きる

お年寄り達が見せてくれた。人は皆それぞれ孤独

生きる

数年間ホームヘルパーとして働いた。様々な親子の確執を見る仕事だった。父のように若い頃ギャンブルにのめり込み借金を重ね家族に捨てられた老人がいた。
また90歳に近づいたおばあさんに60代の娘がどうしても若い時にされた態度が許せないそんな感情を持ち続ける関係も見た。

歳をとり哀れな老人となった親の姿でさえ和解の材料とはならない…なんだかガッカリだった。


祖父と暮らした数年間は老人が苦手だった。
それでも案外老人との会話が弾んだのはやはり祖父と暮らした経験があったからだろう。

老人との会話は面白い。
たいていの老人はヘルパーとの会話を待ち望んでいた。毎日のように若い頃の自分と仏壇の中の道楽だった亭主との夫婦喧嘩を、まるで今起きたことのように話して聞かせるおばあさんがいた。いかにろくでなしの亭主で自分が苦労したかという喋りなれたストーリーを面白おかしくスラスラ話す。
すべらない話に参加できるくらいの話術なのだ。


毎朝訪問し毎朝同じ話を聞くのだ。
「うんうんそれで?」
「うん。その次は?」
「えーひどい旦那さんだねー」
私も今はじめて聞いたかのような毎日新鮮な魂のこもった相槌をかえすのだ。
我ながらすごいと思う。

つまらなそうに聞こうが、面白がって聞こうが同じ1時間。女優になって演じていると本当に面白くなってくるから不思議だ。




時にはベットから落ちて朝までそのままだったり、ご飯の食べ方を忘れたりするようになっても最低な旦那のてっぱんのネタを毎日のように話す。神童と言われた自慢の一人息子は都会の大学を出てあっという間に都会の女と家庭を持った。旦那は散々好き勝手した後あっという間にあの世に行ってしまった。

娘を産んどきゃよかったわー。


こんなはずじゃなかった。
なんで先に死んだんだ。旦那め。

仏壇に文句を言う。

さっさと私を迎えにこい!
チーン

夫婦ってすごいな。
おばあさんはひとしきり仏壇の旦那に怒った後旦那が好きだったチョコレートを10枚私のカバンに勝手にいれる。私は9枚をこっそり仏壇に戻して帰った。



母も将来案外こうして父の事を語るのかもしれない。
おばあさんは私の顔は覚えているが名前を覚えられない。私に名前を紙に書くよう頼むので、家中あちこちに私の名前のメモだらけになっていた。新しい事は覚えられないのだ。

記憶が抜け落ちて分からなくなってきても、頭の中に最後に残るのは誰だろう。その人にとってどんな存在なんだろう。


訪問先の老人の生まれた年を見る度に密かに父の姿を想像した。
20数年以上前に別れた父と同い年の爺さんを見るたび、当然だが普通に爺さんだった。短くない流れた歳月を感じずにはいられなかった。


忘れられない老人がいる。
父と同じような勝手極まりない人生だった。風呂無しの未だ汲み取り式のトイレのアパートに暮らしていた。階段を登る途中からすでに汲み取りトイレの匂いがした。息を止め部屋のドアを開けるとすぐ小さな冷蔵庫。そばに並んだ安い焼酎のペットボトル。奥の部屋には小さなテレビとストーブ。敷きっぱなしのせんべい布団。大切に吸っているシケモク。黒いチワワを飼っていた。
人を受け付けない頑なな態度。
家と妻と娘と息子を失い過去の自分と、世の中全てに腹を立てていた。

正直、瞬間的に嫌悪感だった。

どのヘルパーの優しさも受け付けない。ヘルパーも怒鳴られるのが怖いので嫌がって訪問を拒否する。困り果てて試しに行ってみてくれと言われた。はじめて先輩と2人で訪問した。


「この人の世話をするのはたぶん自分だ。」瞬時に感じた。
震えるくらい嫌いな爺さんだった。汲み取りの匂いのする汚い部屋で一日中過ごすふてくされた老人。すべて自分が撒いた種だ。父と全く同じ。

仕事だ。お金の為。
そう自分に言い聞かせ通った。

老人は最初は見栄を張って昔どんなに自分が金持ちですごかったかを自慢していた。私は黙って聞いた。寂しかったのか犬は私が行くとまずはくるくる回って嬉ションを部屋中漏らす。

話をしている間私にずっとまとわりついて離れなかった。爺さんは訪問の際に香水をふって私を待つようになった。

何度か通ううちにその老人は自分の盛ってないほうの人生を少しづつ私に語りだす。ギャンブルが止められなかった若い頃。酒を浴びるほど毎晩朝まで飲んだ。家族を顧みなかったバカな自分。家まで抵当に入れて金を借りた。皆出ていった。

早くくたばりたい。
死んでしまいたい。

チラチラと私を見た。
この爺さんは結局構って欲しいんだ。
優しくして欲しいんだろうな。
甘ったれめ。


「このワンコをひとりにしない為に頑張らなきゃ」

帰って欲しくないので必ず時間ギリギリになるとグズグズと話していた。



バタン。

わんわんわん。
犬がずっと吠える…


カンカンカンカンカンカン



汚いアパートの階段を降りながら考える。
これはたぶん私の父の姿。
私は本当の父に、こうして来ることができるだろうか?

こんな風に父が暮らしていたとして自分の子供を連れて遊びに来れるだろうか?

心にもない言葉を言えるだろうか?

優しくできる日が来るのだろうか?



数ヶ月前にこの老人が亡くなった事を聞いた。コロナウイルスだった。


老人が最後の住人だった汲み取り式のアパートはきれいさっぱり壊され、新しいステキな家が建っていた。
散歩をしながら通り考える。

チワワは寂しかっただろうな。どこに行ったんだろう。
死んだ後、娘さんは来たのかな?
死んで楽になれたかな?寂しくも苦しくもなくなってよかったね。

父との想像模擬練習させてくれてありがとうございました

でも答えは出せませんでした。




ココ
















コメント

  1. ココココ より:

    まさるさんコメントありがとうございます。
    本当に気が重く、その重い気持ちを隠すのに苦労しました。
    週に2回のデイサービスでクラスターがあり、陽性になり退院したのですが、アパートに帰ってからあっという間に弱って亡くなったと聞きました。

  2. うりまさる より:

    医者は自分の家族の手術は出来ないって言いますものね💦
    お仕事、と割り切ったから接することが出来たのか、
    お父様と似ていたから続いたのか。

    コロナ、どうやってうつったのだろう(*´ω`*)💦