ココからのブログ

昭和生まれの50代ココです。

かっこつけても結局私はいつもオチ。

人に舐められる事が多い。
べつに尊敬される程のじんぶつではない。
でも、
それにしてもと思うことがたまにある。

デビュー初日から。



高校を卒業して上京し寮生活のスタート。
皆、社会人デビューしようとかっこつけるのに必死だ。
上京の日は会社から指定されていた。

横浜市営地下鉄のとある駅。
田舎者が人事課の人と駅に雁首を並べていた。

自動改札の使い方の指導がはじまった。

「素早く通って下さいね」

筋金入りの田舎ものが40人ほど、吸い込まれる切符に焦り
キャーキャー騒ぎながら心臓バクバクで改札を通った。

今想像するだけで恥ずかしい。

夜になり、田舎から今日上京して来た新入生が寮の食堂に集めらる。


先輩や寮の管理人さんから言われる心構えを神妙な面持ちで聞く。
食事の配膳方法を聞いた。

朝の食パンは二枚までとか、順番を守れとかいう説明だ。
たどたどしい手つきで夕飯のおかずをお盆に乗せて自分の席に戻った。

田舎からきたばかりの娘達は、ケミカルジーンズ率高め。
寮で履くズボンは黒いジョッパー率高めだった。
キメキメファッションのつもりでいる。

そしてどの顔も緊張の面持ちで聞いている。

私は最初から気になっている事があった。

私の座る端っこのテーブルのちょうど対角線上の端っこにいる女。
まぶたが真っ青なアイメーク。
プールから上がったかのような紫の口紅。
派手な女がこっちを見ている・・・

始まった時から目が合っていた。
バッキバキに目が合う。
ガンを飛ばしてきていた。


「こいつは敵なのか?」


デビューしたての田舎もんが目でけん制しあっていた。


1人ずつ自己紹介をしてくださいと言われた。
出身県と好きなテレビと好きな食べ物。
なんてことはないよくある自己紹介だ。


端にいた例の女はトップバッターだった。
少し緊張の面持ちで無難に当たり障りのない自己紹介をした。


皆、緊張からかびっくりするくらい1人目と同じことを言う。


私もクレープが好きです。

この世に食べ物がクレープしかないかのようだった。



私の番が来た。

気の利いたなにか違う事を言う気満々で、その女をギラギラ見ながら立ち上がった。
なんて言おうかな…
ウケ狙いばかり考えながら急いで立ちあがった。

椅子が私の立つ早さについていけなかったのか思いっきり体が斜めによろけ
目の前の味噌汁に手がはいってテーブルが一気に大惨事になった。

椅子から立ち上がるという当たり前のことで急に転んだ私を見てみんなが息をのんだ。


ありがたいことに、そこら辺のテーブルから一斉にティッシュやふきんが飛んでくる。
見るとあの女も笑っていた。
みんな優しかった。



「えっとサザエさんとホヤが好きです。」

なんかグダグダで微妙な感じに自己紹介は終わったが、そのあとあの女とは普通に仲良くなった。


あの時殺し屋のような目でガンを飛ばし合ったのに。
第一印象が悪い相手ほど仲良くなったりする。

なんでわたしだけ?



舐められるのは思い返すと人間だけではなかった。

高校生の時。
夜中に家を抜け出して友達の家に集まった。
農機具の置かれた物置の二階のたまり場で騒ぎ帰る明け方。

そこで飼われている老犬。
いつも私にだけ異様に吠えてくる。
誰にも興味なさげに前足にあごをのせて、人が通ってもチラ見するだけの犬なのに。
私にだけは喉が枯れるほど吠えるのだ。



他にもある。
子供が小さい頃、家族で牧場に遊びに行った。
ポニーの散歩体験。
可愛い小型ポニーで大きい犬くらいのサイズ。
頭に赤いリボンがついていた。
太いリードを持ってのんびり牧場を散歩した。
長女、長男と順番にリードを持って歩いた。
次女はまだ小さいので夫と二人で持った。
次は兄妹3人でリードを持つ。


パカパカとゆっくり歩くポニー
ゆっくり時間が流れていた。

のどかな時間だった。

「お母さんも持ってみたら…」
「お母さんはいいよ」
「えー楽しいし簡単だよ」
「いいよ、終わっちゃうから。」
「大丈夫だよこの子おとなしいし。やってみて。」


子供達に勧められしぶしぶ交代することになった。
なんだか嫌な予感がするのだ。
私にリードが渡された瞬間にポニーが急に大きなため息のような呼吸をひとつした。

「え?なに今の?」

びっくりした瞬間。
ポニーが急に暴走した。
もうたまらないという感じで焦っている。
さっきまでポニーはずっと前を向いてのんびりと歩いていたのに。

きっと背後の会話を聞いて、リードを持つのが私に変わったと察したのだろう。
私が持った瞬間の大きな嫌そうなため息。



なんでなんで?

夫が全力でリードをひいて助けてくれた。



ずっと私はこうだった。


人に舐められる。
動物にも。


でも緊張されるよりは、舐められるくらいがいいのかもしれない。

そんな感じが自分には合っていると、この頃は思う。



ココ