気にするな。
友人にそうは言ってみたがきっと無理なのだ。
こころがやられて力がでない。
その友はまるで元気のない声で自分を責めていた。
分かっていたのに女優になりきれなかった自分。
心の準備をして、自分の役割を果たそうとして行ったのに
結局母親を傷つけてしまった自分。
責める責める。
でも客観的にだと分かる。
なにも悪くない。
あるあるな話。
用があってラインで会話してたら今ちょっと電話していいかと聞かれた。
疲れて気持ちが限界まで落ちているという。
ラインはまどろっこしいし、娘がコロナだったのでしばらく人と会わない事にしていた。
近所に住んでいるのだけど、電話で話を聞いた。
この前の母の日。
友は3時間くらいの距離の実家に一人で泊まりに行ってきたそうだ。
80代の両親が住んでいる。
すごく優しい人なのだが色々あって実家に行くのに憂鬱なのだ。
実家のある街に着いてからドトールで1時間以上うだうだと時間をつぶし、意を決して訪問した。
実家なのにすんなり行けない人もいる。
お母さんのことを気にかけていつも電話している。
まるで娘の事を心配するかのように母親を常に気にしている。
でも結婚後に旦那さんや子供抜きで泊まりに行くのは数十年ぶりだったという。
母親は待ち構えていたかのようにたくさんの話をした。
何十年も前に夫がした浮気にたいしての怒り。
何年も姑や親戚に嫌なことを言われた恨み。
離婚しなかったのはあなたの為だった話。
いかに自分が苦労したかについての愚痴。
自分の話したいことだけを話す実の母。
孫の近況も友人の近況も
あらそうなので終わり、次々と出てくるのは愚痴か悪口。
何回も聞いた自分の父親が過去にした浮気の話。
さぞかし、しんどかっただろうと思う。
できれば高齢になった親と衝突したくない。
自分が聞いてあげることで心が晴れるなら。
頑張って聞き続けるのも一晩は長かったようだ。
最初から居心地は悪かったけど、どんどん体調がわるくなってきた。
心の中に湧いてくる言いたい事。
お母さんにも非があったのでは?
過去はいい加減水に流したら?
お父さんが働いてくれたから暮らせてるのでは?
自分はそんなに完璧なのか?
私はサンドバックじゃない。
心があたたまる話や、楽しい話をしたいのに。
3時間かけて来なきゃよかった。
泊まらなきゃよかった。
聞きたくない。
帰りたい。
次々頭のなかに浮かび苦しかったという。
「でもさ、人生前向きに考えたほうが楽になれるんじゃない?」
考えた末に、友人はそんなニュアンスのことをぽつりぽつりと言った。
お母さんは瞬時に目を三角にして怒りを込めて言い返す。
あなたは浮気をしない旦那さん
優しくて頼りになる旦那さんがいるから
絶対にお母さんの気持ちなんて分からないでしょ。
言わせてよ悪口くらい。
友人は我慢できずに怒ってしまった。
その後も嫌な態度をとってしまい
気まずい気持ちで帰ってきたという。
帰り際の母の悲しそうな顔が頭から離れないという。
「あんな年取った母に怒ってしまい私はひどい娘だよ」
罪悪感でいっぱいになっている友人が心配になった。
80代のこころは強いと信じて。
せっかくの母の日。
なんて寂しい時間なんだろう。
友人は自分が楽しかった話を披露できない。
夫と仲良く暮らしてる話が出来ない。
幸せだと言うのが怖い。
あなたは幸せだもの。
あなたにはお母さんの苦労なんて分からない。
いいわね悩みがなくて。
娘の穏やかな日常を聞くとだんだん不機嫌になる母親。
お母さんにとって子供のしあわせは嬉しいことではないのか?
3時間かけて泊まりに行って、どうするのが正解だったのか。
娘っていつもそうだ。
母親の気持ちに寄り添い、心を砕きすぎている。
こういう時に全力で話を聞いちゃダメなのだ。
自分の事として聞いてしまうから苦しい。
昔の記憶のままで一緒にいる夫をただただ憎いと話しているお母さん。
目の前にいるおじいさんになった夫に文句ばかり言うお母さん。
娘にぶつけるお母さん。
変われないのだからしょうがない。
それはお母さん自身の問題であって、夫とのいつものやり取りなのだろう。
変わってくれと言うのもある意味、娘のエゴなのかもと考えた。
お母さんは往年のヒット曲をずっと歌い続ける大御所のベテラン歌手のようだ。
長く歌い続けた一番のヒット曲。
たまに歌いかたを変えたりいろんなバージョンはあっても
その恨み節ソングをずっと歌い続けて行くって決めているのだ。
リサイタルがはじまる。
憎い~♪
あなたが~♪
ぜったいにわすれません♪
感情タップリにいつもの18番がはじまったら心の中で手拍子をしながら聞けばいい。
相槌は延々とそうだったのねでいい。
辛かったねでもいいかも。
途中でばれないようにチラチラ推しの画像を見るのもいいかも。
ヒット曲は飽きてるから聞き流すくらいで充分。
あ!ぜんぜん聞いてなかった!
ってくらいフワッと聞く練習も必要かもしれない。
これはうちの夫もそうなのだけど、男性がすごくうまいような気がする。
全然聞いてないのに、聞いてるフリ。
でも世の中の母親は、息子にはあまり愚痴は言わないのが不思議だ。
心底嫌われたくないからか、まともに聞いてくれないからなのか。
これも学び。
いつか自分も老いていく。
見た目も変わって出来ていた事がどんどん出来なくなる。
その気持ちはまだちゃんとは分かっていない50代の私たち。
その年代にならなければ分からない気持ちがきっとあるのだろう。
お母さん。
幸せそうにしてくれないと私が辛い。
ほがらかなおばあちゃんでいて欲しかった。
嫌な人にならないで。
こんな事を母親に期待すべきではないのかもしれない。
実際は私も、まともに母親の話を聞きすぎるので何度となくぶつかった。
どんどん性格が悪くなっているような気がして悲しいのだ。
でも母親だってきっと後味の悪い気持ちだろう。
結局、数日経ってやり合ってしまった記憶が薄まって少しずつ忘れるまで辛いだろう。
優しく会話をして一日が終われない自分が辛い。
電話口の友人の嘆きと悲しい気持ちは痛いほど分かった。
自分にだって80代はいつかやってくる。
子供にとって、
特に娘にとって
会うのがしんどいお母さんにならない為に
いつもご機嫌でいること。
夫には感謝すること。
それが演技であってもそうありたい。
自分の今後の生き方を母から学ばせてもらってるんだろうね。
しみじみ電話口で話した。
ココ