20代は危なっかしくフワフワと生きていた気がする。
全くしっかりしていなかったあの頃。
人って優しい。
おかしな事をするたびに見知らぬ人に助けて貰うことも多かった。
ほんの些細な事でも助けてもらった事は忘れない。
幸せなことに助けてもらうたびに優しさを心に刻むことができた。
世の中にはあんがい親切な人が多いと思う。
今はスマホがあって情報も多く便利だし若者は賢い。
道を訪ねる必要もあまりない。
私のような危なっかしい20代はもういないのかもしれないし助ける機会はたぶん少なくなった。
大人の優しさや見知らぬ人の親切にも警戒しなければならない時代にもなった。
それは少し残念な気もする。
小心者なのに大胆な行動。
20代。
30年以上前。
上京して2~3年くらいだったろうか…
そのくらいでは都会にまったく土地勘はなく電車に乗ろうにも切符もスムーズ買えないような感じ。
路線図をいつまでも眺め途方に暮れるような田舎もんだった。
その日は午後から引越し前に住んでいた神奈川のある土地の市役所に行った。
よくわからない税金の催促の封筒が届き、電話では埒が明かないので思いきって直接聞きに行ったのだ。
市役所は混んでいて思いのほか時間がかかり帰るころには夕方近くだった。
おとなしく駅に戻って帰ればいいものを懐かしい町を少しブラブラしたくなった。
実は引越しはアパートの自分の部屋に変質者が入って泣く泣く退去してしたものだった。
そんな理由で長く住めなかった町。
正直歩いているうちに自分がどこを歩いているのか全くわからなくなった。
この癖はいまだに治らない。
知らない町も無計画に歩き、迷うのが好きだ。
途中から焦って汗びっしょりになって小走りになるなんていつもの事だった。
迷っているとバス停があった。
とりあえず疲れたのでベンチに座って休む。
見るともなく時刻表の知らない地名を眺めた。
上京した田舎もんは暮らしそのものがどこか旅気分だ。
はじめての景色を見るのが楽しい。
ちょうどバスが来たので適当に乗ってみた。
なんとかなるだろう。
いつもだが考えが甘い。
普段は電車でしか移動しなかったし、バスに乗っての移動は新鮮だった。
「聞いたことがある場所か、駅にでも着いたら降りよう。」
そんな軽い気持ちでバスに乗っていた。
気分は旅行者で窓の外を眺めていた。
しばらく走る。
景色が流れる。
歩き疲れた体に適度なバスの揺れ。
気持ちよく乗っていた。
たのしい。
・・・・・

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次の瞬間。
自分が今どこで何をしているかわからない状態で気づいた。
景色を見ているうちにすっかり爆睡していたようだった。
随分長いこと寝た感じがして、辺りを見ると真っ暗でバスの乗客は私1人だった。
もっさりした寝起き状態で頭が働いていなかったがさすがに焦った。
「あの、すみません降ります」
慌てて言った。
運転手さんは大声で
「びっくりした!! いたの?!」
運転手さんのちょうど真後ろに座っていたので、全然気づかなかったようだ。
回送してまさに今車庫に入る寸前だった。
もう少し起きなかったらもしかして車庫の中のバスで一人目覚めるところだった。
大ピンチ。
恥ずかしすぎて最寄り駅を聞き謝って降りようとしたら
「本当は怒られるからこのこと絶対言わないでね。どこなのか分からないみたいだから駅まで送ってあげる」
まさかの駅まで運転手さんがバスで送ってくれた。
バスの料金を払ったかさえもあやふやだ。
そしてやはり全く訳の分からない駅に着いた。
娘には寝る神経がありえないし迷惑だしヤダそんな人と言われる。
行き当たりばったりの悪い癖。
渋谷のタクシー乗り場。
終電をのがしタクシーを待っていた。
そっと財布を見ると、自分が帰りたい場所までは心配な残高だった。
お金をおろしてなかったのか、とにかくドキドキしながら待っていた。
ついてから払えばいいかとも思ったが、万が一家にあるお金で足りなければ厄介だと思った。
恐ろしいほどの無計画だったと思う。
クレジットカードが使えるタクシーが来ればいいと思っていた。
タクシーの長蛇の列で、あと少しで順番が来る時まだどうするか迷っていた。
後ろの人に、
「次のタクシーがクレジットカードが使えなければ先にどうぞ」
そう言っておいた。
サラリーマン風の男性だった。
タクシーがいよいよ次という時。
後ろの人がそっと私の肩を叩いた。
「これで乗って帰りなさい。もう二度とこんな時間にお金も持たずに危ないことしちゃダメだよ」
そう言って1万円を手に持たせてくれた。
突然のことにびっくりしてお返しするのでお名前と住所を教えてくださいと言ったらこう言った。
「あなたが大人になったら今度は自分より若い子にやってあげなさい。こういうのは順番だから。ほら気をつけて早く帰りなさい」
そう言ってタクシーにお願いしますと言って乗せてくれた。
かっこよすぎる。
今となってはどちらの方もどんな人だったかも顔も覚えていないけど、親切にされた恩は一生忘れない。
きっとこんな事ができる優しい人は幸せに暮らしているだろうしそうであって欲しい。
親切な大人。
50代。
あなたが優しくされたり親切にされたのはそれはきっと若かったからと言われる。
ならばおばちゃんはこれからは親切にする側になればいい。
もらった優しさと親切を、どんどん人に分けれるようにかっこよく生きたいと切実に思う。
ココ
コメント
ウラジーミル・アスポンさん
そうですね。やられたことを今度は後輩にって言う伝統とか聞きますよね。
自分は出来るならプラスのバトンを渡したいと思います。
そして車庫の話は、最近そういう話も聞くので怖いですね。
案外見つけてもらえなかったりってあるんだと思います。
やよいさん
やさしさだけでも次に引き継げたらいいなって思います( ´∀` )
その人に直接親切を返すのではなく
もっと大人になって同じような若者がいたら
助けなさい!という考え方は素敵ですね…(‘ω’)
でも、このお話で思い出したけど、
自分が先輩や上司から受けたイジメを
その先輩や上司にやり返すのではなく
新たに入ってきた後輩をイジメる事ではらす話があります。
今回のように美しい話もあると思うと、素晴らしく思います。
実は、直接の相手にお返しをするのでなく~には、
負のエピソードもありますから。
タクシーであったおじさんが素敵ですね。
こういうスマートな親切がいいですね。
あと、車庫にまでいきそうになったのはピンチですね。
気候によっては小さい子なら気付かれず
熱中症になって大変な事になりそうな気さえします。
良い話をありがとうございます(*^▽^*)
困っている次はまた若い子に。
ポセイドンさん
めちゃくちゃカッコいいです。
タクシーのおじさまと同じですね(*‘ω‘ *)
そういうお手本を若いうちに見れている部下の方たちは幸せだと思います。
Nick Ollieさん
私、人には恵まれてきたと自分でも思います^m^
ピンチも多いのですが助けてもらうことも多かったです。
感謝しないとっていつも思います( ´∀` )
ひでぴんさんありがとうございます。
ペイフォワードググってみます( ´∀` )
私もこのおじさまみたいにカッコよくなりたいです。でも実際はあんまり当時と変わってないような・・・💦
自分は会社で部下と飲むとき、部下からお金は(基本的には)受け取りません。
いつか上司になったときに部下のために使いなさい、と。
そのサラリーマンの方の足元にも及びませんが。
ピンチになる度にいろんな素敵な人に出会ってきたんですねー。それはココさんが実はとても強運の持ち主なのかも。ピンチの時に現れる強運の神様、みたいなー。
こんにちは。
誰にでもできることじゃないよなぁ…
ココさん、良い経験されましたね。
『ペイフォワード』という映画を思い出しました。
タクシーのりばのおじさま、かっこいいですね〜
最近はこころがカサカサする話が多くいけど、ちゃんとこうやって次の人にバトンを回せる大人がどこかにいるんだなーって思うと救われます。
そうですよね。
機会があれば自分のできる範囲で親切にできればと思います。
どんな時代も親切にしてくれる
人はいるし自分も困ってる人見たら
親切にしてあげたい。
本当にあの時代は景気が良かっただけでなく、今より他社に対して寛容だったような気がします。
豊かさは心の余裕にもつながりますよね。
今は便利ですが、自分もですがスマホの画面ばかりを見て周りの人を見ることがないように感じます。
若者たちが希望を持てるように景気も含めいい時代になってほしいものです。
タクシー待ちで男性が1万円を渡してくれた話とても良かったです。
その時代はバブル期で人々に余裕のあった時代なのかもしれません。
余裕があれば他人にも目を配ることができますが、今の時代は……。
もちろん、景気に関係なくその男性は初めから素晴らしい方だと思います。
景気が良ければ、人々の生活や心も良くなっていくのでは?
お返ししないとって思いますよね^^;
私も言ってみたいてみたいですが
無理かもなぁ一万円は^ ^😬
自分も。色々親切受けて
わかります!
親切受けた時はほんとに幸せ感じますね。
自分もそうなろう!って思います
小説に出てきそうな格好の良い男性ですね。
私もそうありたいと願うばかりで、現実はスマートさの欠片もない人生です。
言ってみたいなぁ~・・・・・そんな台詞。