ココからのブログ

昭和生まれの50代ココです。

無口なカギが見ていたたくさんのひみつ。

しってるよ。

ちょいちょい断捨離をしているので持ち物は少ない方だ。
引っ越すたびに生活はシンプルになっていくが心の中にはたくさんの思い出。

ジプシーのようだった。



洋服であれ身の回り品であれ、物はわりとあっさり捨てれる。
でもなんとなく捨てれずにそのまま持っていて溜まってしまった数本のカギ。
小学校の時の勉強机のカギのような小さいカギ。どこのか分からない小屋のカギ。
大好きだった車ボロボロのSAAB900のカギ。本体のない自転車のカギ。

その中にどこのか分からない謎の部屋のカギが数本ある。




結婚してからだけでも10回くらい引越しをした。それ以前でも5回以上引っ越している。




もちろん賃貸の部屋はその都度不動産に返却しているはずなのだが、スペアキーなのか手元に残ってしまった得体のしれないカギ。



今日からここに住むという日から、今日で部屋とお別れという日まで。
何回も何回も過去の自分が挿したであろう部屋のカギだ。

もうすでに壊されて存在しないアパートもある。
10年以上前に若い頃お世話になった部屋を見に行ったらそこは跡形もなかった。
あまりの街の様変わりにショックを受けたのを覚えている。
最初に暮らした女子寮も壊され今はライオンズマンションが建っている。



カギを見ながら過去に暮らした色々な部屋を思い出して感傷にふけっていた。
ふと、カギに振り回された20代のある日のことを思い出した。


行ったり来たり。



当時私は横浜駅の近くで働いていた。
遅番が鍵を閉めて帰ることになっていてその日は同僚と私がそうだった。


戸締りをしてかぎを閉め同僚と別れ帰路に着いた。

当時は急行に乗れても30分もかかるような場所に住んでいた。
最寄り駅から部屋も遠かったので、通勤はけっこう大変だったがその分家賃は格安。
のんびりしていて公園も多く環境が良かった。



駅から延々と歩きようやく着いた自宅ドアのまえ。
リュックの中をガサゴソしたがカギが見当たらない。

「あ!そういえば・・・」

日中暑くなって着ていた薄手のジャケットを脱いだ。
着ないで帰ってきてしまったがカギは確かそのポケットに入っているような・・・



いくら考えても職場に戻るしか方法はなく、とぼとぼ駅までの道のりを歩く。
朝の通勤と同じように再び列車に乗って職場に戻った。


列車から降りて駅構内を歩きながら職場に歩く道すがら急にゾッとして汗が一気に噴き出した。



そういえば数時間前の職場の帰り道。
「明日休みでしょ?私が持っていくね」
同僚が職場のカギを持って行ってくれたんだった。
職場に置いたジャケットを取りに入れない事に気が付いた。

どうしよう・・・



携帯もない時代。
あったとしてもあまりにも迷惑だ。
同僚には連絡はしなかったと思う。

途方に暮れながら列車に揺られ、数十分経過した後私は再びアパートの前にいた。

いざとなると人は凄い力が出る。

困り果ててアパートの裏に回って侵入経路を探した。
スパイダーマンのように壁の色々なところに足をかけ2階までよじ登った。
必死で風呂の小さな窓から部屋に入った。
窓が小さすぎて頭から浴槽に転げ落ちそうになりながらもなんとか家に入れた。
古いアパートがユニットバスじゃなかったので風呂に窓があったのと、2階だから誰も入ってこないだろうとカギを閉めていなかったのも幸いだった。


思えば高校生の頃。
夜中に抜け出したのは自宅の1階の風呂だった。
田舎の家の風呂は窓も大きく一階だったので入るのも出るのも余裕だった。
まさかいい大人になって夜中に2階アパートの風呂から忍び込むとは思ってもみなかった。

あの時誰かに見られていたら確実に通報されていただろう。

注意散漫はいまだ健在。

次の日。
おやすみの朝。


前日、疲れ果てて寝てしまいそのままにしていたリュックの中身をのろのろと出した。
信じられないことに底のほうに脱いだジャケットがきちんとたたんで入っていた。
もちろんポケットにはアパートのカギも入っていた。


あの時風呂から無理やり侵入してすりむいた腹がしばらくヒリヒリしていた。
腕にもあちこちに擦りむいた痕。
前の夜の無意味な往復と無意味な侵入。
そして冷静になって外から見るとどうやって登ったんだろうというくらい窓は高いところにあった。
良く落ちなかったもんだし二度と出来ないだろう。



落ち着きなさいと20代の自分に声をかけたいが50代になっても残念ながらやってることは大して変わっていない。


いまだカギではちょいちょいやらかしている。
カギを持たずに家族の中で1番最初に家を出てパートに行き、終わってから家に入れないなんて序の口だ。
冬の朝。
ごみ捨てで家を出た一瞬。
子供がカギを閉めて学校に行き家に入れず、大慌てで走って追いかけた。

そのくらいのことは数知れず・・・






得体のしれない数本のカギを見ていると、
その時その時真剣に馬鹿みたいなことをしていたのを思い出す。
カギは考えてみると私のすべてをそばで見ていたのだ。

お金を貯めて自分で初めて借りたアパートのカギ。
飲みすぎてフラフラと家に帰って開けたカギ。
友達が泊まった時はカギを預けて部屋を先に出た。

仕事に行くのが面倒だったり、誰かと会うのが嬉しかったり。
落ち込んで帰って震える手でカギを開ける日。
嬉しいことがあってケーキを買って帰りカギを開けながら落としたことも。
カギを開けたり閉めたり今まで何回やった事だろう。
そして生きている限りそれは続く。





どこのか分からないカギのアパートはもう無いかもしれないけど、
カギ達はきっとそばにいて見ていた私の思い出をすべて覚えているのだろう。

静かなカギに聞いてみたくなる。


                  ココ