私について

これからは普段使い。

私について



子供も二人家を出たので、普段はめちゃくちゃ少ない食器で生活している。
この先まだまだきっと引っ越しはするだろう。
去年引っ越して若い頃のような体力もないのだと、つくづく感じた。
なので引っ越しが楽なように物は増やさないようにしている。

普段は100均の食器が大活躍だが、
とっておきの時に使う数点の大事な器やグラスがある。

眺めているだけで幸せな気持ちになるもの。
思い出と共にそばにいてくれるものたち。


希望はかなわず。




高卒で最初に働いた百貨店。

日本の伝統的な商品を揃えイベント的な要素のある売り場に配属された。
テーマはジャパントラディショナルで、毎週なにかのテーマに沿って売り場を作り、
催事を行っていた。
常に陶芸家、職人、古美術商、デザイナーなど様々な人間が出入りする活気ある配属先だった。


実は私は館内放送を希望していた。
希望調査の人事との面談時、
「売り場の方が向いているんじゃないかなぁ」と言われ、嫌な予感がした。

そして案の定、適当に書いた第二希望の売り場に配属になった。
高卒地方出身者は一年目はレストラン街に配属され礼儀礼節を叩きこまれ、二年目に希望の売り場に配属という今ではおそらく考えられないような制度があった。
田舎もんは右も左も分からないという前提だったが、その頃は事実そうだった。

門限が10時の女子寮。
田舎から来た純朴な娘っ子たちが、都会に少しずつ慣れた。

モンスターズインクのロズとマツコ・デラックスを足したようなおっかない女性上司に厳しく育てられ、まるで学校のようだった。
やっとの思いで行きたい売り場に配属されるのが入社二年目。
その中で希望どうりの売り場に行けなかったのは、たぶん私くらいだっただろう。


あとから考えると、土地勘もなければ横浜の地名の読み方もろくに分からない。
たぶん微妙な東北訛りも残っていたであろう私が、都会の百貨店の館内放送などできるはずもなかった。
それでもあの百貨店特有の癖のあるしゃべりかたの館内放送。
あれをマイクに向かって言う仕事に憧れていた私は、内心ショックな気持ちで配属先の上司のうしろをトボトボ重い足取りで歩いていた。

それが配属初日の事だった。



ハイカラな売り場。


いざ仕事がスタートすると、初日の気持ちとは真逆で本当にここで良かったと思える職場だった。

通常の売り場と別に、毎週のように目まぐるしく変わるイベントスペースがあった。


デザイナーが窯元を訪ねて買い付けた作家さんの器が並ぶ週もあった。
江戸の職人芸をテーマにした週は、たくさんの職人さん達が並んで実演をした。
またある時は売り場一面が京都のアンティークショップになった。
ほおずき市や縁日を再現したり、古着の着物屋さんになったりした。
その都度全国のいろいろな場所から実演や、販売のために人が来る。

今とは違い、当時は物がたくさん売れた。
すべてが活気に満ち溢れ、楽しい欲しいが溢れる毎日。



私は、職人さんの入店証の手配をする係だった。
初日に「よろしくお願いします」といいながら、バッチを渡しておしゃべりをする。
なんの戦力にもならない私だったが、職人さん達には本当にかわいがってもらった。




ブラシ職人。
おろし金職人。
べっ甲細工。
刃物職人。
切り絵細工。
江戸切子。
絵馬師
こけし職人。
張り子細工。
あけび細工。

いつもいつも飽きもせず眺めていた。
何十年も同じ事を続けて、日々精進してきた匠の技。
近くで見る贅沢。



今、この年齢になるとより一層分かる職人さんの凄さ。
一つの事を続けるというのは難しい。

嬉しい再会。




百貨店を辞める時、同じ部署の人や、職人さん達にたくさんの贈り物をもらった。
寮を出て新たな生活をスタートする事になっていたので、贈り物には新生活で使うようにと素敵な器もたくさんあった。


その後、私は様々なことがあって引っ越し大名並みに引っ越し人生をおくってきた。
私の持ち物はあっちにいったりこっちにいったり、随分と段ボールの旅を繰り返した。
途中、どこに行ったのか分からないもの、考えると少しもやもやするものがけっこうあった。



半ばあきらめていたのだが、母の住む団地にある団地に似合わないサイドボード
実家から母と必死で運んできた古めかしいガラスのサイドボードの中に、いくつかの器がひっそりと佇んでいた。

きっと、貴重なものだから壊さないように実家に預けていたのだろう。
よくぞここまで守られて残っていたものだと思った。
何十年も使っていなかった器やグラス。
いくつかの物は思いきって普段使いで使うことにした。



冬の手作りおやつ。





その中でも頭の中にあったイメージのままの大切なグラスと久しぶりに感動の再会をした。





江東区で50年もの間江戸切子を作り続け、2018年秋の叙勲で表彰された職人。
大久保忠幸さん。

画像お借りしました。

いつも笑顔で面白い事ばかり言って笑わせてくれた。
大好きな大久保さんが来る江戸の職人芸展のある週はおしゃべりするのが楽しみだった。
辞める時に、特別に作ってくれたグラスを手渡された。


「これはオールドたぬき。って言うんですよ」
「ふるだぬきになっても明るくいてね」
「このたぬきみたいな母さんになってね」



素敵な笑顔で心を込めて作ってくれたサプライズのグラス。
世界に一つだけのグラス。


数年前、仙台の百貨店で大久保さんに再会した当時の同期。
あまりに感激して思わず声をかけ携帯電話で私にその場から電話をかけて声を聴かせてくれたが、大久保さんも戸惑った事だろう。
でも懐かしんで話す声は当時の優しい話し方そのままだった。
よく考えるとそれも子供たちが幼い頃だったから何十年も前の事だ。


きっとお元気でいる事だろう。
あまりに昔の事で今は忘れているかもしれないが
出来ればいつか東京に行って訪ねてみたい。


若かりし頃の楽しかった時間。
人に恵まれたことを思い出し、感謝しながら
時々これでお酒を飲もうと思っている。

                     ココ












コメント

  1. 苔桃 より:

    こんばんは
    世界に一つだけの江戸切子!
    たぬきの切子なんてユニークですね
    色合いもステキです
    思い出もステキです^ ^♪

  2. ぜんぜん関係ない話で申し訳ないが、上のフラミンゴが好き。( ゚д゚)ウム

  3. 土偶のどっ子 より:

    その当時は気づかなかったけど、今この歳になって、実はとても良い出会いをしていたんだなぁって思うことがたくさんあります。
    色んな職人さんに出会える職場なんてそうそうないですよね✨
    ふるだぬきになっても明るく、たぬきみたいな母さんに。
    いい言葉ですね。私もそんなふるだぬきになれるよう頑張ろう😊

  4. Nick Ollie より:

    ステキな切り子のグラスですねー。思い出も詰まってる。
    使うのも勿体ないけど、使わないのはもっと勿体ない。

  5. ひでぴん より:

    どれもみんなココさんの思い出も詰まっていることでしょうし、職人さんの想いも…😌
    味があって素敵ですね!👍🏻

  6. sam より:

    当時の思い出が詰まった食器が今現在活躍してるのですね✨
    心温まるエピソードだなぁ(^^)特別に作っていただいたグラスとっても素敵です☆

  7. 鳥天 より:

    思い出が詰まったものは捨てられないよね~。それが自分のために作ってくれたオンリーワンなら尚の事だ。飾っておくのも良いけれど、使ってこそ、かもだねー。

  8. きままなマーシャ より:

    当時の出来事も人との出会いも宝ものですね。
    美しい切子のグラスを手にしたときに
    一瞬にしてタイムスリップしそうですね^^
    素敵なひとときをお過ごしください。
    過ぎた日の思い出はキラキラと輝いて愛おしいです。
    そんな想いができるって幸せですよね^^
    14回の引っ越しも友人がたくさんできて
    かけがえのない財産になりました(*^^*)

  9. AKAZUKIN より:

    綺麗なグラスですねー。そして偶然の再会!
    いいなぁー・・・
    職人さんのお仕事って、ほんとに素晴らしい・・

  10. ぽぱい より:

    デパートの催事場で工芸品展があると必ず行きます。
    そこでは買わないけどね(現地調達派なのです)
    張り子職人さんの技を見て仲良くなって後日、訪問します😃

  11. てんてん より:

    「随分と段ボールの旅を繰り返した。」
    転勤族だったので僕も同じです。
    引越しが大変なので物を増やさないようにしていたのに、マンションを買って寝室になるはずの部屋が段ボールの部屋になってます。
    定年退職したので、落ち着いたらここから整理しないといけないと思っています。
    素敵な江戸切子!しかも「世界に一つだけのグラス。」素敵すぎます。
    大切だからしまい込んでしまいそうですが、大切だからこそたまに手に取って幸せを感じるのも良いですね♪

  12. スティンガー五郎 より:

    百貨店は街のランドマークであり華やかさと繁栄の象徴でしたよね。
    週末は人で溢れかえり、いつも物産展は企画販売のワゴンが所狭しと並べられて、は別世界へ連れて行ってくれるアミューズメントパークのようでした。

    多様化と利便性の波に飲まれネット販売と物流網の発達によって、今や百貨店は青色吐息。

    実際に商品を手にとって購入するって、かなりの満足感と高揚感が味わえたので、私は大好きでした。

    北海道物産店などがあった時は、普段は口にできない北海グルメで口福を味わったものです。

    地元でも型にはまった同じようなものが売っているショッピングモールが数件残るのみとなる、昔ながらの百貨店はすべて駆逐されてしまいました。

    自分の原風景が時の流れとともに引っ越ししてしまったようで寂しいです。

  13. primex64 より:

    江戸切子、しかも唯一無二の別製とは…。素晴らしい、そして心温まるお話でした。

  14. 特別な食器はいいですよね。心温まります!

    素晴らしい売り場に配属されたんですね。
    日本の伝統的な商品を売るだけでなく
    イベント的要素もあるんですね。

    しかも、毎週何かのテーマに沿って売り場を作り催事をするとは素敵ですね。
    その売り場は店員とお客だけでなく
    陶芸家、職人デザイナーなど芸術的な空気の売り場なんですね。

    1年目はレストラン街で礼儀礼節を叩き込まれ、
    さらに女子寮なので、やや厳しい生活ですね。
    1年目の上司もおっかないのを我慢して、行きたい所に行けれる筈が、
    行けれず残念でしたね。
    館内放送を希望してたから、当初はガッカリなものの、
    こんな素敵な売り場なら、最高だと思います。

    職人さんの入店証の手配をする係になるかたわら、
    すごい職人さんを間近に見れていいですね。

    江戸の職人では実演をみれたりして楽しいですね。
    売り場が京都のアンティークショップになるなど、本当に素敵です・・・(*´ω`*)

    百貨店を辞める時、職人さんからも贈り物が貰えるなんて凄いですね。

    その後、引っ越しが多くて、行方不明になってしまった物も
    多いですよね。
    お母様のサイドボードの中に
    行方不明だったいくつかの素敵な食器が見つかり良かったですね。
    お母様がココさんの物を大事に預かってくれて良かったですね・・・(^^)/

    いくつかの素敵な思い切って普段づかいにされたんですね。

    切子のタヌキのグラスが気になって、この記事をしっかり読む前に
    必死で検索しまくったけど、無かったです。
    「大久保忠幸 江戸切子」の検索ワードです。

    それもその筈ですね。

    辞める時に、特別に作ってくれたグラスなので、
    世に1つしかないものなんですね。

    そこまできっちり読まずに、記事を読んでいる途中で、
    ヤフオクやメルカリや楽天とか調べまくったのです。

    この唯一の器、すっごく私の好みです・・・(≧∇≦)

    大久保忠幸さんのほかの作品ももちろん素敵です。

    先代で大久保さんに再開したデパートの同期の
    方は、ココさんも大久保さんに思い入れがある事を記憶していて
    電話かけてきてくれたのが嬉しいですね。

    本当に、単にデザインだけでなく、
    ココさんへのメッセージもこめた
    素敵な切子ですね。

    ふるだぬきになっても明るく、このタヌキみたいなお母さんに・・・
    そのメッセージのとおりになっているでしょうかね・・・(´艸`*)

  15. やよい より:

    江戸切子、かなり高価な物ですね。
    それをココさんの為にオリジナリティーのデザイン。
    思いがこもったグラス。
    よく地震で割れなかったなぁと思ってしまう。
    あっ、あんまり影響なかったかな?
    私も仕事を辞める時、担当していたメーカーさんに色々頂いた。
    私もこれから、
    現在使用中、特別に大事にしておきたいもの、無くても生活できる物 この3択で断捨離計画中。
    引っ越しはしないけど、
    私ら夫婦が死んだ時、「物があり過ぎ❗」と文句言われないよう、片付けしやすい様にしておきたい。
    ココさんもまだまだ引っ越しを考えていらっしゃるなら
    身軽に移動したいもんですよね。