ココからのブログ

昭和生まれの50代ココです。

たちあおいの花と恋しい人。

 

 

 

 

 

 

 

あなたは、私といても、いつも何処か上の空よね?

私のことなんて、好きではないのでしょうね?



そう言って、僕の元から女は去っていった。



ちっとも、本当の気持ちがわからないわ。





僕は、何度か女を愛したが、いつも、どの女も、最後には不服そうに僕の元を去った。





愛していないんでしょうね?






僕を試すようなことばかりを言い、答えられない僕を罵ると、女は誰だって

いつも目の前から去っていく。






一人が好きなのね。





そうして、ずっと一人でいるといいわ。







そうだ。

一人が好きなのかも知れない。







でも、






夏の日に、道端に咲く、たちあおいの鮮やかな赤を見ると、僕の心は途端にあの人に会いたくなる。








唯一、僕が、ずっと一緒にいたい人。









女と、激しく抱き合っている最中であっても、たちあおいの赤が脳裏にかすめると、あの人を思い出し、心の中は途端に興醒める。








あれは、7歳の夏だった。






僕の人生はあの時から、何もかも変わってしまったのだ。






僕は生まれてすぐから、祖母と二人で暮らしていた。







田舎道。

祖母との散歩。

道端に、花が咲き、祖母はいつも僕を、大切な物を見るような目で見ていた。








僕と祖母との、貧しいけれど温かな二人だけの暮らしは、

突然現れたホントウノチチと、実の母との、新たな生活によって、強制終了してしまった。







九州の田舎から、全く違う都会での暮らしがはじまった。








「お前はもぞか子や。びんたがよか子や。お父さんお母さんのゆーこんを、よーく聞いてな。

ぎーをゆうたらいかんよ。」







別れの日まで、祖母は僕を抱きしめそう言った。


僕は泣かずにただ、頷いた。






僕はあの時、ここにいれば祖母の迷惑になるかと思ったけれど、
もしやり直せるならば

泣いて嫌がって、あそこに踏みとどまることを選んでみたい。






生きるのが辛い時、そう、何度も考えた。





大人になった今でも、時折そうだった人生を夢想する。






無力な子供と、それ以上に無力だった祖母。







人生は、思い通りにならないものだ。






あの時、心から愛する祖母と、暮らすことができたならば、もう少しだけ

上手に誰かを愛せたのかもしれない。









「おばあちゃんは、げんなかけど、じぇんがなかで、どうするこんもできないんだよ」







おばあちゃん。








僕は、あなた以上に恋しい人を、見つけることができなかったのかも知れない。









別れのあの時咲いていた、たちあおいの花を見るたびに、思い出す。



愛しいあなたの事を、思い出す。







もう会うことが出来ない今になっても、空を仰ぎ見ながら思う。







僕は、もぞか子かな。






愛しいあの人の、しわしわの手を思い出す。




                            #ものがたり





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