私は、幼い頃、火葬場のとなりに住んでいたのだけれど、そこは相当古い建物で、待合室に気味の悪い掛け軸があった。
うすらぼんやりした絵で、まともに見れないくらい怖かったのだが、今になると、どんな絵だったか,思い出したくてたまらない。
お寺の地獄絵も、子供の頃すごく怖かったのだけど、なぜか見たくてたまらなかった。
「幽霊見たことある?」
住んでる環境がそうなので、同級生に飽きるほど聞かれた。
おまえんちで見た、という目撃証言もたくさん聞かされたけれど、実際には一度もお目にかかっていない。
たぶん本当に霊感があれば、あそこに住むことなんて、できなかっただろう。
そんな感じだったからか、見たこともないし、怖がりな癖に、なにか幽霊は身内のように身近な存在に思えた。
会ったことのないスターみたいな感じ。
身近に感じる幽霊。
怖いもの見たさで、何年も前から見たいと思っていたが、今まで一度も行けなかった毎年恒例の展示。
ギャラリー森山の「ゆうれい展」
最終日、ちょうど休みだったので、一人で行ってみた。
とても落ち着く空間。
懐かしい気持ちになる古民家を改装したギャラリー森山。
市内の寺院や個人が所有する、幽霊の掛け軸、地獄絵、ねぶた絵の絵師が描く幽霊がなどが、80点余り、毎年お盆のこの時期に展示される。
受付のお姉さんに聞いたら、撮影はすべて自由とのことだったが、気軽にカメラを向けて、ゆうれいが怒らないか、ちょっと心配になった。
以前バラエティ番組で、放送中に目が空いて、問い合わせが殺到した生首。
今日は、しっかり目をつぶっていた。
私が見ている瞬間に、私だけに分かるように一瞬だけ目が空いたらどうしよう。
ドキドキしながら見たが、ずっとつぶられたままだった。
ゆうれい画の他に、妖怪や、河童など、いろんなキャラクターも隠れていて意外にも、怖いだけではなく楽しい展示が多い。
夏休みだったので、大号泣している子供もいるのが、活気がありすごくいい。
一時間くらいウロウロして、何周も繰り返し見て回った。
油断して、生首の目が空いてないか、再び見に行ったが、ちゃんと閉じていた。
江戸から明治にかけて描かれた幽霊画は、
一つ一つの絵の迫力のせいか、幽霊なのに生命力のような物を感じる。
怖いというよりも、エネルギーを感じる絵画だった。
幽霊たちも、案外、毎年お盆の時期に自分達を供養しに訪れる人間たちを、楽しみにしているかもしれない。
長い年月を経て、少しでも、悔しさが薄らいでいたらいい。
そういえば入る前、ゆうれい展の入り口で、見終わって出てきたおじいさんが、
「おい、たんげ、おっかねがったぞ。ねっちゃだいじょうぶが?」
興奮気味に、話しかけてきた。
「やめとけ、きょうの夜、べんじょさ、いけなくなるぞ」
孫にでも言うような口調のおじいさんが、面白すぎた。
じぐなしな、じっちゃだな。
可愛すぎて、ニヤニヤがしばらくとまらなかった。
毎年怖がらせながら、来る人を笑顔にさせてくれる、幽霊たち。
来年も、会いに行きたい。
ココ
3年前の映像です。