父
この頃思う。人は大体何歳ころにものごころがつくのだろう。大体の人は幼いころの記憶は何歳ころからあるんだろう?私は幼いころの記憶があまりない。自分の記憶として実感を持っている幼い頃の記憶がほとんどない。 自分の傍らにいつもいた猫のことも、何も…
寿司が好きだ。私にとって寿司はせつないご馳走なのだ。今でこそ回転寿司が寿司を身近なものにしてくれたが、昔は寿司は特別だった。夜中酔いつぶれた父が大声を出しながら帰宅し、無理やり起こされ眠い目をこすりながら食べた折詰に入った寿司。できれば起…
トロッコに乗った。トロッコには今まで乗ったことがなかった。子供の頃に芥川龍之介のトロッコを読んでから乗ってみたいとずっと心の片隅で思っていた。本が好きな長女とも話すトロッコの話。トロッコという言葉の響きもなんだか好きだ。トロッコの箱に乗っ…
父は身勝手で生活全般だらしなかった。一緒にいると恥ずかしい思いをすることが多かった。 そんな父でよかったと思うことがある。 私自身にだらしなさとデリカシーのなさへの耐性がかなりあるのだ。 恥ずかしい… 子どもの頃。 父が普段じぶんだけ飲み歩いて…
父は年中カブに乗っていた。今思うと父の人生は自由で子供のようだ。 後部座席は座布団。 いまでも新聞配達の人が乗っているあのバイクである。あれに乗って普通では考えられないくらい遠く100キロでも出かけて行った。もちろん行き先は赤ペン持ってギャンブ…
夕方にはいろいろな匂いがある。 大嫌いだった父。怒鳴られたり殴られたり理不尽だった日々。でも18年余りの一緒に暮らした日々の中には穏やかな凪のような一日もあった。あまりにも数少ないからこそこれほどに残るのだろう。古い数枚のフィルムのような記憶…
子供の頃。 父と出かけた思い出をふとしたひょうしに思い出した。小学校の低学年の頃だろう。 身長100センチくらいからの視線。 耳が痛くなるくらいうるさい店内。煙草の煙でのどが痛い。もう何時間も前からその場所に飽き飽きしている。店の床は真っ黒で銀…
母方の祖父は99歳まで生きたが父方の祖父もかなり長生きだった。 思えば太く長い人生だった。 自称?だったのか・・・ 祖父は坊さんだった。近所でお年寄りが亡くなると連絡が来た。時間になると故人の家の人が祖父を呼びに来た。祖父の家の裏が墓地で、墓守…
昔の空は高く感じた 家庭を省みない父親だったが一度だけ一緒に遊んだはっきりとした記憶がある。 とぼとぼ歩く小さいわたし。 小学校で工作の時間にやっこ凧を作った。明日から冬休みという日。たくさんの勉強道具と一緒に持ち帰ることになった。 私の家は…
父はすべてにおいて無頓着な人だった。あれがよそのおじさんだったらどう考えてもやばいけど面白いおじさんと思ってみていただろう。 神経がないのだろうか。 だから最終的に破産したのだと思うが、財布はほとんど持たず札もむき出しで持つ。ズボンのポケッ…
**** 私は50年あまりの人生がわりと波乱万丈だったので打たれ強さはあるほうだ。起きる出来事が大きいほどどこかで「どうにかなるだろう」瞬時に冷静に思う冷めた自分がいる。たぶん昔からの "大変な事が起きた”と "でもどうにかなった”の繰り返しからの慣れ…
弟が産まれしばらくは病院通いが続いたが、最初に母が、少し後になり弟が退院した。極小未熟児で産まれた為か、敏感で夜泣きがひどい赤ん坊だった。明け方まで泣き続けることも珍しくなかった。 それでも家に自分以外の子供がいる暮らしは楽しく新鮮だった。…
あの頃はうんざりするほど長くいつまでも続くのだろうと思っていた。そのさなかにいる時、後から考えてまさかあれが幸せな日々だったと思うことになるとは夢にも思わなかった。 古い古い記憶。 父はいつも酒と煙草のにおいがした。いつも中古のおんぼろな車…