村民運動会。
リレーのアンカー。
ぶっちぎりでトップ。
ゴールテープをきる自分の姿が頭を掠める。
一位は当然、自分。
通信簿は、いつも2ばかり並んでいたが、足の早さだけは自信があった。
まわりの歓声がどんどん大きくなっていく。
ゴールテープを切るのは、毎回、じつに気分がいい。
きっと、あと数分後だ。
走る。
走る。
走る。
あれ?
おかしい、
走っても走っても、ゴールテープがないと思ったら、ゴールへと直進せずに、
カーブを2周目へと、全力で走っていた。
「ちがーう」
「そっちじゃなーい」
「なにやってんだよー」
慌てて戻ってゴールして、結果は当然ビリ。
まわりの歓声だと思っていたのは、一人だけゴールを間違えて、走っている事を教えるみんなの声だった。
村民運動会。
村中の人が、笑っていた。
40年以上経っても、時々思い出すらしい。
今の夫は、冷静でいかにも失敗しなそうな、落ち着いた雰囲気を醸し出しているが、実は子供の頃からひどいおっちょこちょいだったようだ。
褒められたくて、夏。
数日前、冷凍庫を開けて、アイスのラインナップを見て、昔の事を思い出したようだ。
小学生の頃、夫の家は3世代同居の兼業農家で、農繁期には、一家総出で農作業をしていた。
学校が休みの時は、手伝いをしていたらしいが、子供なのでたいした事はできない。
朝から暑い日で、午前10時の休憩になった。
兄弟の中でも、ダントツに足が早い夫が、家族全員分のアイスを買ってくるという役を任命された。
大きなお札を預かった。
畑を飛ぶように走り、焼けるようなアスファルトを脱兎のごとく駆け抜けた。
そして、村のたばこ屋でアイスを買った。
買いに来た人の特権で、自分が好きないちごフロートを選んだ。
夏の暑さに、溶けてしまわぬよう、褒められたい一心で全速力で走る。
走る。
走る。
おー。
もう買って来たのか。
早かったな。
ありがとう。
さあ、食べよう食べよう。
褒められて、嬉しくなりながらアイスを皆に配った。
おめぇ、さじもらってこねがったのが?
、、、、
皆で、フタを使って食べていたアイス。
50過ぎになった今でも、その光景を覚えているようだ。
たばこ屋の、ばあさんが、さじをいれなかった。
ちょっと、人のせいにしてみたりする。
失敗とは、実に鮮やかに記憶に残る。
長くて100年のあっという間の人生。
毎日いろんな事をして、日々過ぎていく。
昨日食べたものさえ、覚えていない。
そんな中、子供の頃の、ある1日。
忘れずに残る確かにあった数分間の思い出。
失敗して、恥ずかしいという感情。
思い出。
一つ一つが
大切で愛しい記憶なのだと、この頃思う。
ココ