今年職場で知り合った少し年上の人に幼い頃のクリスマスの思い出を聞いた。
クリスマスプレゼントは、お母さん特製の手作りのおやつで可愛い紙袋に入っていて、子供心にとても嬉しかったそうだ。
春雨を油で揚げてガーリックパウダーをまぶしたものとか、当時にしてはハイカラでちょっと凝ったお菓子が入っていた。
子供の頃、今年はどんなものが入っているかワクワクしながら開けた気持ち。
ある年は、お菓子のカールおじさんの柄の紙袋だったことがあって、それがとても可愛くて嬉しかったようだ。
その人とは以前、年取った母親との関係の難しさについて、話したことがあった。
今ではとても気難しくなってしまった高齢の母親。
優しくなりたいのに、ぶつかってしまう。
それでもクリスマスに、幼い頃のささやかだけれど幸せだった時間を思い出すと、少し優しい自分になれる。
移動の車の中で、そんな事を話した。
きっと今の子どもは、油で揚げた春雨のお菓子では喜ばないのかもしれない。
でも物が豊かではなかった時代だったからこそ、一つ一つが本当に輝いて見えた。
子供の喜ぶ顔を想像しながら、春雨を揚げたおかあさん。
私はその話を聞いて、紙袋に入った春雨のスナックを食べてみたくなった。
ほんのり大人の味。
手作りの優しい味がしそうだ。
母とのクリスマスの思い出。
アパレル店員だったので、クリスマスは毎年働いていた。
今より景気が良くて、世の中が気持ちよく能天気に浮かれていたので、クリスマスは消費の大チャンス。
売る側にとっては、一番の稼ぎ時だった。
時にはイチャイチャカップルを道化のように笑わせ、買い物を盛り上げた。
贈り物を選ぶ内気な男子高校生には、真剣に出会いからの馴れ初めを聞き出し、相談にのる。
仕事は楽しかった。
ノリとテンションで一日中喋り続け、さすがに疲れ果てて帰り道は能面のような顔になる。
遅くなってから母親の待つアパートに帰った。
ただいま。
あー、つかれた。
服が売れるように、おしゃれしているのだけれど、その格好のまま居間にだらしなく横になった。
手さえも洗っていない。
疲れすぎて何もしたくないのだ。
喋る気力もないという感じだ。
まくらか座布団が欲しかったが、取りに行くのが面倒なので持っていたリュックを頭の下に置いた。
寝ころんだままテレビを見ていたら、母に聞かれた。
「唐揚げ食べる?」
「食べますとも!」
腹ペコだったので、食べようと思って起き上がった瞬間。
耳に激痛が走った。
「いででででで」
耳にしていた輪っかのピアスが、リュックのファスナーの持つところの穴にちょうどよく入っていた。
本当に絶妙のタイミングだった。
重たいリュックが耳からぶら下がっている。
「なになになになに?どうした?」
急に叫んだ私に、母は飛んできて理由が分かった瞬間に吹き出した。
早くどうにかして外してほしいのに、私の横で転がってゲラゲラ笑っている。
床を叩いて大爆笑が止まらない。
ピアスからファスナーを外そうにも、笑いすぎて手が震え、やり方が荒くて耳がちぎれそうだった。
「絶対無理。できない。」
母の言葉。
あの時は一生耳からリュックをぶら下げて生きていかなければならない覚悟を少しだけした。
結局、どうやってとったのかは、よく覚えていない。
母の笑いが落ち着くまでの間、私はあきらめて寝ころんだまま、耳にリュックをぶら下げたまま唐揚げを食べた。
母は、コップにストローをさして飲み物を持ってきた。
コップを渡す手を震わせながら、私をふたたび見た。
そして、そこからまた何十分もの間、笑い続けていた。
当時、私が働いていたビルで、母は社員食堂のおばさんをやっていた。
次の日にはこの話を面白おかしくみんなに話したようだ。
面白い娘さんと皆に言われたようだ。
そして、何十年も経った今でも、思い出すとこの話を楽しそうに話す。
クリスマスが近づくと、ひくほど笑っていたあの楽しかった時間を思い出す。
ココ