そいつにはいつもお世話になっているのに感謝が足りなかったのだろう。
いつも分からない事を聞いて頼りにしている癖に
心の底からは信用していない。
聞く→答えるというだけの関係性。
非常に愛想もなく必要な時にしか答えが返ってこない。
時々あまりにも黙っているので、不安になるが唐突に
忘れていたわけではないよとばかりに話し出す。
根はすごく真面目なのだ。
夜の山道。
真っ暗な闇。
完全に道が分からなくなりパニックなのにひたすら無言を貫かれ
「なんなんだよ!どっちなのさ」
なんて暴言を吐きながら運転した。
もちろん相手は返事をしない。
Google navi
この時の無言はちょっとだけ普段感謝していない事への反発と意志を感じた。
退化した感覚。
ガラケーを使っていた30代前半。
スマホのない時代は道も今より覚えていたし、感覚がもっと鋭かったような気がする。
頼るのは自分の感覚だったのでもっと集中して周りを見ていた。
この前、出かけた時に車で山越えをしたルート。
30代の頃に何回か通ったこともあって標識を見ながらなんとなく通れていた。
今回行きは全然大丈夫だった。
集中していたし早朝だから明るかった。
帰りは下道を通るか、有料道路を通ればいいのになんとなくわざわざまた山道の景色を見ながら帰ろうかなんて思った。
考え事もしていたので、車通りのないルートを通る気分だった。
秋の日は釣瓶落としだよと小さい頃何回も言われたけれど、もう今は秋を通り越して冬なのに50過ぎてもぜんぜん学ばない。
3時頃に出発したのだが、その判断がのちに間違いだったと気づく。
途中で有名な観光スポットがあって、観光バスから人がたくさん吐き出される。
休憩してトイレに入ろうとしたら中国人観光客で激込みだったのであきらめた。
まだ我慢できるかなと思って、気楽に考えていた。
車に戻り再び走りだす。
気合で帰れば家まで我慢できるかもしれない。
まだ暗くはなっていなかったので気持ちに余裕があった。
そんないらない事を考えながら走っていたのでナビをちょっと聞き逃した。
その先に二股になった道があってなんとなく右を選んだが瞬間的に絶対間違えたなと思った。
でも山道なので戻れずそのまま走り続けていたらナビが慌てて、軌道修正を始めた。
冷静にひとこと
「25キロ道なりです」
と言ったきり、しばらく何も言わなくなった。
このまま方向は合っているのだろうか?
朝、通った覚えのない道を走っている。
心なしかトイレに行きたさも増してきたがそれどころではない。
天狗か仙人でも住んでいそうな森。
墨のように真っ黒な山の中。
ちょっとさっきから何で黙っているのさグーグル。
そう思いながらもひたすら走り続けたら唐突にポツンとトイレが出没した。
熊も怖いし、そもそも私は公共のトイレが怖くて街中の公園のトイレでさえも
1人では入らない。
きっと明るかったとしても入れない。
自分が山の中で道を間違えている事だけははっきりした。
一体なにをやっているのだろうと思いながら、これもあとで思い出になるのだろうなんて考えながら運転をしたら、以前住んでいた街に向かっていると標識で気が付いた。
市街地を通れば自分の今住む町に帰る道は、はっきり分かっている。
その時の行動は完全にどうかしていたのだけれど、そのまま市街地を通って知ってる道で帰るのが自分にもグーグルナビにも負けた気がして
Uターンで暗い山に戻った。
もう一度休憩したトイレのある場所まで登り、ナビ設定のやり直しをした。
後で職場の人に再び山に戻ったことを話したらなんで?と驚かれた。
当然だろう。
そのままひたすら走り続けていると突然車が
そろそろ2時間です。休憩しませんか?
なんて話しかけてきた。
観光客がたくさんいたあのスポットで休憩してから2時間も走っていたのかと驚いた。
くだらない私とAIとの戦いだった。
それからひたすら走り、山を降りて自分の町に着いた時は達成感があったが、ガソリンが物凄く減っていた。
どうかしていた。
もしそのうちAIが進化して自分の意志を持ち
「あとは知りません」
「勝手にどうぞ」
なんて山奥で急にナビを辞めてしまったらどうしよう?
そう考えるとナビに頼りすぎるのも怖い。
そして方向音痴もなおしたいし変な意地もやめたい。
ココ