いつも不思議に思うのだが、出かけていたり式典のような状況になると急にトイレが近くなる。
家でのんびりしてる時は全然大丈夫なのに、これから1時間はぜったいにトイレに行けないと分かっているとドキドキが止まらない。
同年代はたぶんだいたいそんな感じで、今回の次女の入学式も始まる前のトイレは列ができていた。
きっと、なにも不思議に思うまでもなく単なるババアになったからだ。
おとなになってから小便を漏らす
これほどに社会的に終わる行為はないはずだ。
あら仕方なかったわねとは誰も思わないだろう。
今、社会人の娘が中学を卒業する時。
卒業式後半の数分間。
私は人生最大の大ピンチだった。
今あの時のことを思い出してもゾッとする。
良く洩らさなかったと思う。
なんにも考えずがぶ飲み。
最近はそうでもなくなってきたが、私はけっこうなせっかちだ。
なにか式典のような行事の時はかなり早めに準備を終えるタイプだった。逆算してちょうどいい時間の一時間どころじゃないくらい早くからスタンバっている。
早く準備しすぎるので、出発まですることがなくて暇でしょうがない。
式典なんかはフォーマルな格好をしているので、汚れるようなことは出来ない。
北国の卒業シーズンはまだ相当に寒くて、待っている間温かいコーヒーを何杯も飲んで過ごした。
今、この年齢になるとコーヒーやお茶の利尿作用の怖さを経験としてわかっているが、当時はまだそこまで痛い目にあっておらず、考えも膀胱も若かった。
なのでなんにも考えずに何杯も飲んでいた。
時間になり駐車場が混むので娘と一緒に中学校まで歩いた。
雪道でかなり下半身が冷えた気がした。
パイプ椅子に座り、しばらく待っていたら卒業式が始まった。
担任の先生がクラスの一人一人の生徒の名前を最後の呼名をする。
卒業生が「はい!」と返事をして立ち上がる。
皆立派な返事だ。
この前入学したと思ったらもう卒業式か。
しみじみとした気持ちで一人一人が呼ばれるのを聞いていた。
我が子の順番が来て、なかなか良い返事だった。
自分の子が終わってほっとしてなんとなく落ち着いた。
そして暇になった。
あれ、さっき行ったのにもうトイレに行きたいかも・・・・
気のせいじゃないと、はっきり気がついた時点で、まあまあの切迫した尿意だった。
きっと犯人はコーヒーと歩いてきたための下半身の冷えだろう。
そして絶望的な事に、娘の中学は大規模校だった。
6組まである学年のまだ3組あたりだった。
一クラス40人くらいなのでまだまだ結構な時間がかかる。
瞬間的に過去の経験上のデータを分析し始める。
このくらいの感じの尿意だと残りどのくらい耐えられるか…
いざ行けるとなった時にトイレはどのくらいの混雑になるか…
待て待て体育館にトイレはあるのか?
現在地から1番近いトイレはどこか?
終わってから走らず追い越さず優雅にトイレに歩いていかなければ…
でも行列になる前に到着したい。
もう卒業式どころではなかった。
今何組かと何度名簿を見てもたいして進んでいない。
自分の娘の呼名をしみじみと聞いた数分前とは全く違う気持ちだった。
随分多いなー。はよ終わってくれ。
巻きでお願いします。
ひどいもんだ。
朝にコーヒーをがぶ飲みした自分を説教したい気分だった。
気を緩めるわけにいかずあまりトイレの事を考えないようにしたが、切羽詰まっていた。
ようやく全員の呼名が終わり、校長、卒業生、在校生と挨拶へと続いた。
コロナ以前の卒業式だったので卒業生も在校生も歌ったり盛りだくさん。
校長先生の話も超絶長い。
式次第の紙を何回も見たがまだ何項目も残っていて絶望を感じた。
はずかしいけどトイレに行っちゃおうかな…
一瞬振り返って、トイレがどこだったか確認しようと思ったら、周りは紅白の幕でどこなのかわからなくなっていた。振り返った感じでは席を立てる雰囲気ではないようだ。
そして出入口付近には、ドアの係の先生が神妙な顔で立っている。
もし、祝辞を述べている今。
おもむろに立ち上がって一直線にドアに歩いたら?
一斉に視線を浴び
途中で小便しに行ったぜあの人って思われるのか。
大きいほうかと思われる可能性だってある。
でも別に悪いことをしているわけではないし。
長丁場になるなら漏らすよりは今のうちか?
全然卒業式に集中できず、トイレに行く行かないで悩み続けるという悪夢のような時間を過ごした。
油断して気がゆるまぬようにさいごまでがんばれわたし。
ご起立ください
終礼
ピアノに合わせてお辞儀をした。
終わった。
やっと終わった。
近くのお母さんがハンカチで涙をぬぐっていたが 私はトイレに行ける喜びにしばし浸っていた。
そして数分後。
無事トイレに到着し社会的に終わらずに済んだ。
長女の卒業式。
この経験は以後の教訓として生かされている。
おばちゃんって本当に大変なんです。
ココ