子供はいつも想定外。
とんでもないことをしでかすものだ。
私にも1つしでかした過去がある。
子供の頃の記憶は霞がかかっているのに。
この出来事だけは、はっきりと覚えている。
光景、そのときの気持ちまでも・・・
孤独な子供時代。
私は12歳まで一人っ子だった。
一人で本を読み色々な空想をするのが好きないわゆる一人っ子気質だった。
母は本に関しては存分に与えてくれていた。
一人が寂しいと思わなかったし、一人の時間を自分から求めているようなところもあった。
母は夜の八時には必ず私を寝床に行かせた。
いくら夢中で本を読んでいても例外はなかった。
そんな中、私は本が読みたくてある方法を思いつく。
一旦は素直に布団に入るとみせかけ押し入れの中でこっそり本を読むのだ。
真っ暗な押し入れの中でびんに立てたろうそくにマッチで火を灯す。
押し入れの中に秘密の空間ができた。
父の仕事柄ろうそくもマッチも存分にあったので支度はたやすかった。
ご丁寧に布団を人型に膨らませ、のぞかれた時の小細工をするのも忘れない。
部屋が真っ暗なのでそれで寝ているように見えたし騙せたのだ。
子供というのは本当に平気で嘘をつくし親をだまそうとする。
少なくとも私に関しては息をするように親をだまし嘘をついた。
私はその秘密の空間が楽しみになった。
親に隠れてマッチを灯し押し入れの下の段で好きなだけ読書をした。
本に飽きると私は自分が死ぬことを想像した。
普段は友達とふざけたり、ドリフを見て笑っているような普通の子供が死ぬことを考える。
夕飯でカレーをお替りしていた子供が、一方では親が悲しむようなことを夢想する。
自分がそうだったからか案外よくあることのような気がしている。
子供は案外見た目ほど単純ではないものだ。
親を後悔させたいという気持ち。
人はいつか死ぬということ。
それは私にとってほんの少しだけ希望でもあった。
私が死んだら母は泣くだろうか?
そして
父は酒をやめ家族に怒鳴るのをやめてくれるだろうか?
想像の自分の死。
それは何か親に勝ったような気持になった。
悔やみ泣く父を想像し、自分を憐れみながら泣いていた。
酒に酔った父を見なくてすむのは自分の理想の暮らしだが
自分が死んでしまえばそこに自分はいないことまで考えられない
やはりそこは子供なのだ。
私は自分の事を不出来な子供だと感じていた。
体も弱く運動も勉強も好きになれない。
自分の心の底の澱のようなものを持て余していたのだろう。
自分という人物はきっと今になにか困った問題を起こすに違いない。
そんなにはっきりした何かではないが
面倒なことからも自分からも逃げたいような気持ちが常にあったように思う。
私が好きな本の世界。
そこは確かにダメな自分や悲しい生活の現実を忘れられ夢中になれた。
しかし読書中は仲間だった悩みを抱えた登場人物。
彼等は、読書が終わると所詮作り物だ。
読み終わると共に主人公は他人行儀にそっぽを向いた。
隣の部屋から父と母のけんかの声がする。
耳をふさいでも聞こえる声。
絶対にいつか後悔させたいと思う決心。
ひょうきんだと言われた子供の私。
心が底なしに暗かったのも同じ私だった。
ある夜ついにやらかした。
ある夜。
きな臭さに気づき目が覚めた。
いつものように押し入れの中で過ごしながらうっかり眠ってしまったのだ。
ろうそくが客用の布団に倒れ、狭い押し入れの中でめらめらと燃えていた。
炎は大きくはなかったが、子供の自分はこのまま焼け死ぬのかと恐怖を感じた。
だがそれはたいした火ではなく子供の私にも叩いて消せる程度だった。
本が何冊か焦げ、押し入れの壁にすすがついている。
とんでもないことを仕出かした。
びくびくしながら台所に行きこっそり水を運び、念の為焦げた布団にかけた。
その部屋は少し離れていた。
親はまったく気が付いていない。
自分の心臓の音が外にも聞こえているのではないかというほど高鳴っている。
ほらみたことか。
やはり自分は何をやってもろくな結果にならない。
真っ暗な部屋の布団の中でそんなことを考えながら朝を迎えた。
次の日は知らない顔で学校に行ったが家に帰るとあっさり押し入れを発見されていた。
部屋がきな臭かったのだろう。
呆れたように父と母から繰り返し火遊びはするなと叱責された。
別に火遊びをしたつもりはなかったが、単なる火遊びと思われて心の中は少しほっとしていた。
神妙な顔でうなだれて聞いた。
子供が単純で無邪気なんていうのは大人の勝手な思い込みなのだ。
押し入れの中。
ろうそくの炎を見つめていた時間。
あの場所には子供の裏の顔が確かにあった。
色々なことを乗り越えて私は大人になった。
単純だと言われている子供という生き物。
子供の中にある、案外複雑な闇。
大人が思うよりたぶんたくさんの事を考えているこども。
闇はかならず抜けれるのだから
ひとり残らず幸せをつかんでほしい。
ココ