私について

心の奥にあった希死念慮。

私について

子供とはいつも想定外のとんでもないことをしでかすものだ。
私にも1つしでかした過去がある。
幼い頃の記憶がもやがかかったようなものしかないのだが、この出来事だけははっきりと覚えている。
光景、そのときの気持ちまでも・・・

孤独な子供時代。

私は一人で本を読み色々な空想をするのが好きないわゆる一人っ子気質だった。
一人でいるのが苦にならずいつでも本が読みたかったし、母は本に関しては存分に与えてくれていた。


一人の時間を自分から求めているようなところもあったし、一人がさみしいとも思わなかった。


母は夜の八時には必ず子供を寝かせる方針だった。
私は幼い頃は体があまり丈夫でなかったのでそのせいで相当の神経を使っていたのだろう。

いくら夢中で本を読んでいても時間になると物置のような三畳の寝床に必ず行かされた。
そんな中、私は本が読みたくてある方法を思いつく。

一旦は素直に布団に入るとみせかけ押し入れの中で本を読むのだ。
真っ暗な押し入れの中でびんに立てたろうそくにマッチで火を灯す。
父の仕事柄ろうそくもマッチも存分にあった。

ご丁寧に布団を人型に膨らませ途中でのぞかれた時も寝ているように小細工をするのも忘れなかった。部屋が真っ暗なのでそれでも騙せたのだ。


子供というのは本当に平気で嘘をつくし人をだまそうとする。少なくとも私に関しては息をするように嘘をつくような子供だった。

それからというもの何回も親に隠れてマッチを灯し押し入れの下の段で好きなだけ読書をした。

本に飽きると押し入れの自由空間で私はいつも自分が死ぬことを想像していた。
普段は友達とふざけたり、ドリフを見て笑っているような普通の子供が死ぬことを考える。
自分がそうだったからか案外よくあることのような気がしている。
子供は案外見た目ほど単純ではないものだ。

親を後悔させたいという気持ち。

嫌なことがあっても人はいつか死ねる。
死は私にとってほんの少しだけ希望だった。母は泣くだろうか?
自分を馬鹿にしたり仲間はずれにした友達は少しは悔やむだろうか?
そして父は色々なことを悔やみ酒をやめ家族に怒鳴るのをやめてくれるだろうか?

特に父のことを想像するときの自分の死は何か父に勝ったような気持になった。
悔やみ泣く父を想像し、自分を憐れみながら泣き続けた。
酒に酔った父を見なくてすむのは自分の理想の暮らしだった。
でも自分が死んでしまえばそこに自分はいないのに。

私はなんとなく自分が失敗作だと感じていた。体も弱く運動も勉強も好きになれなかった。
そして当時心が底なしに暗かった。
自分の心の澱のようなものを持て余していたのだろう。
私という危険人物はきっと今になにか困った問題を起こすに違いない。心の中にはそんな想いが常にあり死ぬこととは最良の解決方法に思えた。

本の世界は確かにダメな自分や悲しい生活の現実を忘れられ夢中になれた。
しかし仲間だったダメな登場人物も所詮作り物で読み終わると共に他人行儀にそっぽを向いた。

隣の部屋から父と母のけんかの声がする。そんな時は死に甘え泣き続けた。
絶対に後悔させたいと思っていた。

ある夜ついにやらかした。


きな臭さに気づき目が覚めた。いつものように押し入れの中で過ごしながら眠ってしまったのだ。
ろうそくが客用の布団に倒れ、狭い押し入れの中でめらめらと燃えていた。私は焼け死ぬのかな?
そんな時でさえ親を呼ぶのは怖かった。でもそれはたいした火ではなかったらしく子供の私にもどうにか叩いて消せる程度だった。

本が何冊か焦げ、押し入れの壁にすすがついていた。

とんでもないことを仕出かした。

びくびくしながら台所に行きこっそり水を運び、念の為焦げた布団にかけた。

自分の心臓の音が外にも聞こえているのではないかというほど高鳴っている。

ほらみたことか。やはり自分は何をやってもろくな結果にならない。
布団の中でそんなことを考えながら朝を迎えた。

次の日は知らない顔で学校に行ったが帰るとあっさり押し入れを発見されていた。
部屋中がきな臭かったのだろう。

呆れたように父と母から繰り返し火遊びはするなと叱責された。
別に火遊びをしたわけではなかったが、火遊びをした子供のようなに振舞った。
火遊びと思われて心の中は少しほっとしていた。

まさか父も母も、目の前の子供が死を考え火を見つめて過ごしたとは思わなかっただろう。
この事は一生言わないだろうと思った。

子供が単純で無邪気なんていうのは大人の勝手な思い込みなのだ。

あの押し入れの中のろうそくの炎を見つめていた時間、あの気持ちは親には内緒の子供の私の本当の気持ちを吐き出す場所だったのだろう。

子供の心の中の闇を大人になった自分が時々思い出す。

                    ココ

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