今年は人生で一番汗だくになったんじゃないかと思うくらい汗をかいた。
過ぎてしまうとちょっと笑えるくらい過酷だった今年の夏。
不甲斐ないにもほどがある。
実は、冬のりんご倉庫のアルバイトはあまり長く続かずに辞めてしまったので、次は何をしようかとずっと考えていた。
仕事ってなんでも大変で、ある程度の壁を乗り越えなければならないはずだ。
そして自分は頑張り屋だ。
だからそのうちできると思っていた。
そして頑張ってるねと言われてはいた。
正直、リンゴの選別がこんなに難しいとは思わなかった。
誰にでもできる簡単な作業ですと書かれて常に募集されていたが、素早く美しく正確に作業するには技やコツがあって熟練の60代70代には到底かなわない。
捌けなくてベルトコンベアーに恐ろしいくらいりんごが溜まる。
傷がついてしまうと怒鳴られ焦れば焦るほどうまくいかない。
しょっちゅう誰かが助けに来てくれた。
もともと不器用なので、なんでこんなに出来ないんだろうと落ち込むことが多かった。
10歳以上若い子達が口々に言った。
「慣れるまで3年以上かかったよ。」
「最初からできるわけないから気にするなって」
慰めてくれる言葉を聞きながら、その3年が長くて気が遠くなるようだった。
こんなに上手くいかない作業を3年か。
嫌だな。
夜に寝ていてもベルトコンベアーの音が聞こえているような気がして眠れない。
それでも頑張っていたのだけれど、わがままなおばちゃんは急に糸が切れたように頑張れなくなった。
りんご倉庫に毎朝挨拶をしても返ってこない金髪の女の子がいた。
私は毎日返事の返ってこない挨拶を意地になってしていたのだけれど、自分が物凄いストレスを感じている事に気がついた。
その子はベテランだったので、やたらと愛想よく振舞って空回っているウザイおばちゃんはそもそも視界に入ってないのかもしれない。
なんとなく考えの甘さや作業の雑さを見抜かれていたのかもしれない。
鬼のような速さで選別作業ができるようになって、挨拶を無視されたら睨んでやろうかと妄想したが到底無理そうなのでやめた。
無視するのもエネルギーがいるだろうに凄いなと思った。
そして本当は夏までの予定だったのだけれど、予定より早く辞めてしまった。
最後は、どうしてもうまく捌けないので辞めさせてくださいと正直に言った。
「そうですか、残念です。この仕事が合わなかったのですね」
「気にしないでください。そんなに謝らないで」
面接してくれた男の人は優しくて、辞める時にもこう言って慰めてくれた。
たぶん今まで私みたいな人が沢山いたのだろう。
それにしても合わないからやめるなんて、この年になってなんだか恥ずかしかった。
そして頑張れなかった自分に無性に腹が立った。
気にしないでと言われるたびに思う。
なんでもいいから自信を持ってできる事が欲しい。
転勤族だから、子供の闘病があったからと色々と理由があったにせよ
何のスキルもない自分が残念だ。
時間は元にはもどせない。
なにはともあれやってみようか
しばらくそんな風にうだうだと考えていたのだけれど、そうやって悩むのも飽きてきた。
合わなかったのだからしょうがない。
夫はそもそも娘をちゃんと見ていてくれたらいい派なので、辞めたと言ったらそうなんだで終わった。
長く続かなかったのが恥ずかしい。
なので次の仕事は陰でこそこそと探していた。
とにかくなにかできる事を見つけて働こう。
そう思って以前から気になっていた清掃の求人に申し込んだ。
昔プロフェッショナルという番組で新津春子さんという人の特集を見た。
清掃の仕事へのプロ意識を見て興味があった。
「物凄い現場もありますが大丈夫ですか?」
「想像している以上かもしれませんが・・」
面接でそんな風に言われ、新たな仕事が始まった。
正直、この人長く続くかしら?と思われていたかもしれない。
定期的に同じ場所をする清掃ではなくて、チームで現場に行き依頼された箇所をピカピカになるまで清掃するのが主な仕事だ。
浴室、トイレ、洗面所、床だったりエアコンや換気扇もある。
個人だったり企業だったり退去した後の寮だったり、そのつど様々だ。
プロの使う専用の道具や洗剤があって使い方やコツ、逆に使っちゃいけない場面なんかを詳しく聞いた。とても慎重さが求められる作業でおっちょこちょいの私は初日から気が引き締まった。
以前やっていたヘルパーの日常の掃除よりも専門的な清掃だ。
ドキドキしながらも道具も洗剤も見るものすべてが物珍しくて楽しい。
年齢層は意外にも若かった。
娘と言ってもいいくらいの年下の先輩。
最近パパになったような若い男の子。
めちゃくちゃ親身に教えてくれる。
やはり人間関係は大事だとつくづく思う。
気遣いも言葉遣いもものすごくきめ細かい。
おばちゃんは本当に見習わなくちゃと毎回思っている。
作業が終わって車から降りる時、ありがとうございましたとお互い言うのにはちょっと感動した。
今年の酷暑。
30度越えの日にひたすら汚れを落としていると滝のように汗が出る。
鼻の頭や、乳の谷間にもだくだくと汗が流れた。
家に帰りシャワーを浴びながら、今度は自宅の浴室が気になって掃除をする。
清掃の仕事をしたおかげで家の掃除へのハードルが低くなった。
汚れは溜めないほうが断然、楽に落とせる。
自分の心のドロドロした汚れも強力な洗剤で落とせたらいいのになと思う。
ココ