ココからのブログ

昭和生まれの50代ココです。

仕事とさまざまな出会い。

はじめてはどぎまぎ。

よく考えもせずに思いつきで何かをやるほうだし、時々痛い目にも遭う。
今まで失敗と成功どっちが多いか考えてみたがよくわからない。

なにをもって失敗と思うかにもよるだろう。
何かをすれば必ずといっていいほどそこには知らない人との出会いがある。

人間観察は面白い。



ランキングの好きなにんげん。





春に引越しをして娘の越境受験から入学のバタバタもようやく落ち着いた。
コロナ禍の制限はあってもそれなりに友達が出来たり楽しんだりしているようだ。

私は今、ありがたいことに前の職場で掛けてもらった失業保険を貰っているので街を歩きながら次はなんの仕事をしようかと妄想したりする。


最近どこかの就活サイトが底辺の職業ランキングを発表して叩かれているが、
そんな価値観は今に始まったことじゃないだろう。


今はネットでわざわざタイトルをつけて声高に発表しているだけのことだ。



昔は、ひそひそ口の横に手を当てて
「どこそこの家のおとうさんはこんな下衆なしごとでかわいそう・・・」
夕方の食卓や母親同士の井戸端会議だったりで噂していた。


子供は聞き耳を立てている。

大人が自分より少し格下を見つけて馬鹿にしたり、逆に金持ちがなにか卑怯なことをしているに違いないとあら捜しをする会話を聞きながら育つのだ。
それは少しずつ打たれる予防接種のようだ。

人間が決して精錬潔癖で真っ白な生き物ではなく嫉妬や見栄や劣等感にまみれているという事に慣れていくのだろう。




はたらくということ。

機械が働くようになりどんどん働く場所も少なくなってきた。

年も年なので体力勝負の仕事はきついのだろうが、仕事をして流す汗は好きだ。
自分の体でひたすら動いてするきつい仕事。

そういう仕事こそ、その仕事によって喜ぶお客様がすぐ近くにあるものだと思う。

昔テレビで見た羽田空港の掃除をしている女性でカリスマ清掃人と言われている人がいた。

彼女の名前は新津春子さん。
中国残留孤児だった父と中国人の母の間に生まれ、反日感情の強い中国でいじめを受けて育った。
父の希望で日本に帰国した高校生の頃、今度は中国人として二回目の差別を受けていた。

家計も苦しかったので、春子さんは言葉を話さなくてもできる仕事として清掃員という仕事を選びアルバイトから始めやりがいを感じるまでひたむきに頑張った。

常に清掃の仕事が下に見られている意識はあったが自分のしている仕事に対して恥ずかしいとか下の仕事と思ったことはなかったそうだ。

春子さんが仕事をする時に心がけていることが

技術より優しさ
使う人の気持ちを考えて仕事をすることだという。

世界で最も清潔な空港に選ばれるほどのプロ意識。

本当に素晴らしい事だと思う。


世界一清潔な空港の清掃人

なんでもやる前はかならずたいぎになる。

散歩をしながら妄想で色々な仕事をしてみた。
乗り鉄気質なので家から近くの駅構内で働いてみたい。
列車の発車する音をずっと聞いて過ごせるのがなんとも魅力的だ。

そんな妄想をしながら自分がこの年で何ができるだろうと考える。
雇ってもらえれば御の字な立場だ。

私は何もしていないと余計な事ばかり考える基本ネガティブ系おばさんだ。
のんびりすることが苦手なので
本当はいち早く汗を流して働きたい気持ちもある。

余計なことを考える時間を減らすにはたぶん労働なのだ。
汗水流してお給金を貰えるなんてこの上ない幸せで、それで帰りに大好きなまんじゅう一個くらい買えたらそれが最高に嬉しい。

ハイボールを飲みながら疲れた体で甘いまんじゅうを食べる。
その組み合わせを心から気持ち悪がられる時間。
そのくらいが充分贅沢で幸せなのだ。

なにかおばさんにできることはないだろうか。

そんなことを考えていたら先日農作業のアルバイトを見つけた。

初心者大歓迎。
年齢制限なし。
都合に合う日だけでOK。
これだ!
失業保険中でもできるアルバイト。
そんな感じで軽い気持ちですぐに申し込みをしたのは数日前のことだ。


そして当日の朝。

いつも思うが何の仕事であれ、初日というのは緊張するものだ。

なんで申し込んだんだろう・・・
私にできるだろうか。
この酷暑予報の中で大丈夫か私。

人はみんなたいていやさしい。

集合場所に着いた。

いきなり渡された地図がもうツッコミどころ満載すぎてニヤニヤした。

農地までの地図の途中の目印が<豪邸>と書いていて、そこから先が紙が足りなくなり、めんどくさかったらしらしく口頭で説明された。

迷いそうだし怖いので農家のおじさんの車の後からついていきますと言った。

徐行くらいゆっくり走ってくれ、ついていったら確かに豪邸があった。

その先は、車一台がぎりぎり走れる細さで片側がまあまあの高低差、ポツンと一軒家によく出てきそうなやばい道。

下に落ちたらたぶんJAFの出番だろう。


私の運転技術では絶対に普段は通らないような細い道。

緊張感のある運転で無事到着し作業が始まった。

なんでもそうだろうけれど慣れている人の手さばきは惚れ惚れする。そして私はこういうコツをつかむ系は不器用で時間がかかる。
それでも見よう見真似で一生懸命やっているとあっという間に時間が過ぎた。

遠くで色々な鳥が鳴いている。
たまに吹くそよ風が気持ちいい。
自然っていい。
時間が分かるためかラジオが流れる山の中の畑。
たまに好きな曲が流れるとテンションが上がる。
楽しい。
毎日来ようかな。

そんな気持ちでウキウキしていた。
早朝の最初の一時間ぐらいは。


「地球温暖化」狂騒曲 社会を壊す空騒ぎ [ 渡辺正(化学) ]

だんだんおひさまが本気を出し始めた。
じりじりと真上から照らす。

カチカチ山のたぬきの気持ちが分かるくらい背中が熱い。
水分補給は各自ということだったが、今まで生きてきてこんなに水が飲みたいことはなかっただろう。
塩飴を食べながら、水を飲みながら、肩で息をしながら気が付いた。

「畑は虫刺されになるから長袖が必要だから貸して」
「ババシャツだってばれないよね?ロンTに見えるよね?」

今朝。
娘と会話して半袖の下に重ねた黒い長袖のババシャツ。
よく見なかったが、たしかこれはヒートテック

毎日来ようかなって思った自分。
考えがあますぎる。

近くの人と話をしたら私以外は皆ベテラン揃いだった。


ベテランのお姉さんは私の二倍くらいの速さで作業しながらめちゃくちゃ言葉がけが優しい。

もっと適当にやっていいのだよという、人を楽にさせてくれる優しさが目に現れている。
マスク生活になって思うのが、本当に目は口ほどにモノを言う。

もう一人の男性は、おばさんの私のトイレを常に気にしてくれた。

あまりに心配されたので「膀胱が人より大きめなのでかなりの時間大丈夫なタイプです」と言ったら笑っていた。

気疲れするのではないかと思うくらい人に気を遣う男性だった。

どう考えても自分より年上のおばさんである私に「おねえさん」と呼んでいるのが申し訳ない。

仕事を辞めて10年くらいお母さんの介護をしていたのだが、最近突然亡くなってしまったらしい。
なにかやり残したような後悔と傷心から立ち直ろうとしていると話していた。

「恥ずかしながらいまだに独身で無職でして・・・」

話しているうちに思う。

この人はずっとずっと自分よりお母さんだったり他人だったりを優先して生きてきたんだろう。
人に気を遣い自分を少しディスりながら話す。

突然亡くなったというお母さんは絶対に生き足りなかったなんて思ってるわけもなく、
息子の人生後半の時間は自分のためにわがままに生きて欲しいと思ってるに違いないと思いそんな話をした。

結婚するというのはほんとにたまたまタイミングが合っただけで、その機会がなかったことを恥ずかしながらなんていう必要はまったくない。

農作業をしながら一生懸命に声をかけてくれる。

「今日が初めてなんですから焦ることなんてないですよ。ゆっくりやりましょう」

たぶん私がうまくできずに焦っているのを見て、見守るように作業してくれているのだ。

私が水を飲んでいる時に、私の口元のほくろを見て
「それってピアスですか?」と言ったあたりからちょっと天然さんだった。


昨日までは全然知らなかった人。
明日からもたぶん会うことはない人。
同じ時間を共有するたった一日の数時間であってもそこにはお互いへの気遣いがある。

ほんの少しの会話であってもなにかその人の悲しみだったりが伝わってきて
出来れば幸せになって欲しいと願わずにはいられない。

誰でもできる単純作業。
そうであってもそれをやるのは人間であって機械ではないのだ。
稼ぐというのは人それぞれで、職業に底も天井もない。

出来得るならば必要以上に自分を卑下しなくてもいいような世の中がいい。
恥ずかしながら・・・なんて言わなくていい。
普通とか平均の生き方に揃えなければならないことはない。

介護で何年か自分の為に生きれなかった人もいるだろう。
人生の歯車が少し狂い急にお金に困ることだって誰にでも起こり得る。
安心して働いていた会社が急につぶれることだってある。

うまくいかない時にも生きやすくて優しい世の中になって欲しい。
作業をしながらそんなことを考えてすこしほろ苦い気持ちになった。

さいごにかならずなにかある。

「今日はありがとうございました。お気をつけて」
「暑かったですね」

灼熱地獄の一日が終わり、みんな達成感の中、挨拶を交わしお給金を受け取った。

喉がカラカラのパサパサだった。
実はちょっと熱中症になりそうな危機感があってぼーっとしていた。

朝通った細い道。
下に落ちないようにマリオカートみたいに運転した。
それでも汗だくだったが肉体労働の後の心地よい疲れ。
それにしても早く何かをごくごく飲みたい。

「今日はちょっと贅沢にコンビニでアイスコーヒーを買って飲もう。」

ファミマで長靴姿でレジに並んでいたらやけに周りの目線が気になる。

そんなに私イケてますか?

ふと気が付いた。
腰に農作業のはさみが付いたベルトをしている。
凶器を腰に差したなかなかに激しいファンキーな恰好のおばさんだったからジロジロ見られたのだ。

最後の挨拶に気をとられすぎて農家さんの大切な道具をうっかり持って帰ってきてしまっていた。

なんちゅう失敗。
正直あの細い道を戻るのは死ぬほどめんどくさい。

慌てて電話をした。

農家のおじさんは笑っていて明日でいいよと待ち合わせ場所を告げた。


そして次の朝。
少し早めに道具を返しに行った。

農家のおじさんは待ち構えていたような感じだった。

神様について興味ある?

ないです。


丁寧にお断りして帰ってきたがちょっとだけ気まずかった。


きっと全然悪気とかじゃなくて勧めてくれたのだろうが、農業アルバイトは次は違う雇い主さんにしよう。

あの細い道路もちょっと怖い。
それにしてもどこかに出かけると必ず何かあるよねと長女に呆れたように言われる。

たった一日で色々な出会い。


そして世の中にはいろいろな人がいる。

                     ココ